Sugarless




<リョーマサイド>










不安、疑心、憎悪、嫌悪…。期待、信条、純心、好意…。


全ての言葉が脳裏を過ぎり、そして消えていく。


この言葉に含まれる意味は、全て俺の心情。


俺は…何をするべきなの?











キーンコーン…


「やっと終わった…。」


前々から学校は面倒な所だと思っていたけど、

こんなに退屈に感じた事は今までなかった。


「おい、越前!連絡聞いたか?」

「何?堀尾…。」

「今日の部活は休みになったってよ!人の話は真面目に聞けよな!」


ないんだ…。

良かった、今は英二先輩に会っちゃいけない気がする。

とてつもない警戒音が、脳内を騒がしく鳴らしているから…。


「そう、有難う。じゃ、俺は帰るから。」


堀尾が後ろで騒いでたけど、この際無視。


「おお、越前。いい所に…コレを3-6に運んどいてくれるかい?」


ゲッ…竜崎先生。

何でこんな日に限って……。


「どうしてもっすか?」

「あぁ、頼むよ。」


今断ったらお説教が飛びそうだな…。

仕方ない、英二先輩が帰ったら3-6に入ればいいや。


渡されたノートを受け取り、3年の教室を目指す。

途中、意外な人物と会うが…。


「やぁ、越前。それ、僕のクラスのだね。ご苦労様。」

「不二先輩…どうして此処に?」

「さっき君の姿が見えたから、手伝おうと思って。」


相変わらずの笑顔…今はこの優しさに甘えたくなる。


「どもっす…。あ、でもまだ教室に入らないで…。」

「何で?」

「…えっと…」


言葉に出来ない。

英二先輩が居たら嫌だから…だなんて。


「…いいよ、暫く廊下に居ようか?」

「っす…」


優しい…俺が言えない事を理解してくれた……。

どうしてテニス部の先輩は優しい人が多いんだろう…。


廊下に二人で立って、暫く何を喋る事もなく居る。

すると中から、英二先輩とクラスメイトらしき男の話し声が聞こえてきた。




「で?賭けは結局どうなったんだ?」

「にゃ?…あぁ、アレね…。」

「何だっけ、その後輩に惚れさせて、抱けば菊丸の勝ちだっけ?」

「…まぁ、確かそうだったにゃ…。」

「で、どうなったんだよ。」

「分かんない…。」

「その一年ってテニス部だろ?…えっと、あぁ、越前リョーマだ。」

「ん、そうだけど。」




目の前が真っ暗になる。

俺?俺はそんな賭けの…遊びの道具だったの…?

俺は先輩に遊ばれてた…。

だから拒否されるんだ…。


「スイマセン、先輩っ…。」

「越前…?!」

ノートを廊下に置いたまま、走り去る。

これ以上聞きたくない!

先輩の『本音』だなんて…。









「はぁ、はぁ、はぁ…」


体が重い…。足がガクガクと震える……。


「越前…大丈夫?」

「不二先輩…!」


追いかけて来てくれたんだ…。

本当に、優しい人だな。


「…辛いなら泣けばいいよ。僕が胸を貸してあげるから。」


そっと抱き締めてくれた先輩の体が温かく、しかも英二先輩の体とは決定的に違うコトに気付く。

…この人は拒絶しない。俺を受け止めてくれる…


「ふっ…う、え…ひっく…」

「……………」


ただ無言で頭を撫でてくれる先輩。

その心地良さは、俺の凍っていた心をゆっくりと溶かした。


「越前…英二が好きなのかい?」

「………」


ただコクリと頷く。…これが素直な気持ちだから。


「僕じゃダメなの…?僕なら君を大事にする…悲しませたりしない。」


うん、先輩の気持ちは信じられる。

本気が肌に感じるから。

でも…ね……


「…無理っす…。先輩の事は好きだけど…このまま付き合っても俺が先輩を傷つける。」

「それでも構わないよ…。僕には君を受け入れる自信がある…。」

「…っでも…」

「迷っているんだね、自分に…。いいよ、まだ答えを出さなくても。」


[傷心の君に好きになってもらっても、フェアじゃないからね]

そう言って先輩は、立ち上がる。


「でも、忘れないで…?君の居場所は何時だって此処にあるからね。」


自分の胸を指差す先輩に、俺は心から涙を流した。





今、辛いからと言って…

この優しい手を取ってしまうのはイケナイコトでしょうか?

俺は…もう疲れた…。

俺を解放するか、愛するか…

この二択だったらどっちを選びますか?

…英二先輩…